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テレビやカメラは、どうやって“再生品”に生まれ変わるのか。パナソニック宇都宮工場に潜入
2025年6月6日 08:00
欲しい製品を手軽な価格で購入したいが、中古品はちょっと不安……。そんな時に魅力的なのが、返品された製品や、店頭展示品などをメーカー自身が検査、修理、清掃し、保証も付けて再生させる、いわゆる“リファービッシュ製品”だ。
だが、そうしたリファービッシュ製品が、どこで、どのように再生されているかはあまり知られていない。そこで、パナソニックのテレビやデジタルカメラなどを再生させている現場、パナソニック エンターテインメント&コミュニケーション(PEAC)の宇都宮工場に潜入。実際に再生するまでの流れを見てきた。
テレビ、BDレコーダー、一眼カメラなどが生まれ変わる場所
パナソニックは、2024年4月から再生品に保証を付けた製品を「Panasonic Factory Refresh」として、直販サイトで販売したり、定額利用サービスで使用してもらう事業をスタート。現在、洗濯機、テレビ、Blu-rayレコーダー、ポータブルテレビ、一眼カメラ、ドライヤー、食器洗い乾燥機、冷蔵庫、炊飯器、電子レンジ、次亜塩素酸 空間除菌脱臭機、LED照明器具、掃除機の計13カテゴリーに拡充している。
それらが再生されているのは、栃木県宇都宮市にある敷地面積82,000m2のPEAC宇都宮工場。この工場は、映像・音響・通信関連機器の製造などを行なっているのだが、工場の一角に、前述の13カテゴリーの中から、7カテゴリーの製品を再生させる中核拠点を設けている。
具体的には、洗濯機、テレビ、BDレコーダー、ポータブルテレビ、一眼カメラ、食器洗い乾燥機、次亜塩素酸 空間除菌脱臭機の再生を行なっている。従来は、各商品カテゴリーのリファービッシュ工程が工場内に分散していたが、今回、新たなエリアにこれらを集約。商品カテゴリーごとに再生工程に最適なレイアウトに刷新するだけでなく、再生品の実機や再生技術を紹介する展示エリアを新設。マスコミ向けに公開したというわけだ。
さっそく、テレビの再生プロセスを見てみよう。
返品されたり、店頭展示に使われたテレビが工場に届くと、まずは本体と付属品を確認。テレビをONにして、単色映像の表示などを行ない、使用に支障となる傷や打痕、破損などがないかを細かくチェック。不良箇所がある場合は、部品交換を行なう。
基板のパーツに不具合がある場合は、ハンダを吸い取って新しいパーツを取り付けるわけだが、気になるのは、テレビ画面に傷があった場合にどうするのかという点。
薄型テレビの表面には偏光板があるが、傷はその偏光板についている。そこで、工場では専用の器具を使い、短冊状にその偏光フィルムを剥がしていく。パネル側に残った、接着剤も綺麗に除去。
その後で、クリーンルームでゴミが入らないようにした上で、パネルの上に新たな偏光板を貼り合わせる。こうして、傷の無いテレビとして復活するのだ。
修理後は、安全検査を全数実施。ホワイトバランス調整や性能検査も、新品を作る時と同じように、パナソニックの基準の色味になるよう調整される。各端子も確認し、デジタル放送などが問題なく映るかも検査。
最終確認後、専用の段ボールに入れて梱包し、新たなユーザーの元に届けられる。
操業58年となる宇都宮工場は、これまでブラウン管テレビやプラズマテレビ、有機ELテレビ、液晶テレビ、さらにTechnicsブランドのオーディオ機器まで、様々な製品を量産しており、そこで培った組立技術や品質管理が強みとなる。その技術を、こうしたリファービッシュ工程に取り入れる事で、高い品質での再生を実現している。
その結果、再生品の購入者から「中古品と感じさせない仕上がり」、「他商品も多く取り揃えてほしい」、「価格面やSDGsの側面からみても良い買い物ができた」といった声が多く寄せられ、品質、推奨度、価格面で高い評価を得ているという。
デジタルカメラのLUMIXも、こうした技術を用いて再生される。修理後のレンズやカメラの性能が、基準を満たしているかも、1台1台丁寧に検査される。その際に、手に持ったカメラを落としたりすることがないように、3Dプリンターで検査用の台を作るなど、細かな工夫・改善を日々行ない、効率も追求しているそうだ。
洗濯機も再生されている。洗濯だけでなく乾燥もできる製品は、熱交換器やヒートポンプユニットを内蔵しているが、長く使うと、衣類の糸くずやホコリなどが乾燥経路のフィルターに溜まってしまう。工場ではこれを丁寧に洗浄し、生まれ変わらせていく。
食洗機も、各パーツを徹底的に洗浄。パーツの素材によって酸性、アルカリ性の洗剤と使い分けたり、消臭のために重曹も活用。ゴムパッキンなど、消耗部品や純正の新しい部品に交換。厳しい検査を経て、出荷される。
工場内の設備にもこだわり
新たなリファービッシュ工程内には、地元栃木県産の木材や建材を使用し、家電製品の廃材を活用した備品を配置。さらに、リファービッシュ工程に使用する電力のカーボンニュートラル化を目指しているほか、社用車にも水素自動車導入。循環型モノづくりのショーケースにもなるように、資源や環境に配慮した整備が行なわれている。
さらに、サーキュラーエコノミー(循環経済)の実現に向け、地域自治体との連携、地域コミュニティと連携した障がい者雇用、地域教育機関と連携した工場見学の受け入れなどを推進。見学に訪れた学生達が、後日遊びに来たり、手紙をくれる事もあるという。
PEAC宇都宮工場の竹田恭介工場長は、リファービッシュ製品のPanasonic Factory Refreshを始めたキッカケについて、「見学に行ったリサイクル工場の中で、家電が粉々に砕かれていく様子を見た時に、まだ使えそうな、新しい家電も含まれていて、“もっいたいない、なんとかしてこれを救い出すことはできないか”と考えた」という。
竹田氏は、「工場の従来からの役割である、資源をリサイクルして、新たな製品を作る役割に加え、不具合を起こした箇所をできるだけ修正して、長く使い続けるという、再生モノづくり、サーキュラーエコノミー型の事業も、工場の新たな役割として必要だと考えた」と語る。
PEAC宇都宮工場の強みとして、竹田氏は「量産工場と同等の設備や仕様、手順を使って再生品を生産できる事。検査においては“安全”に力をいれており、例えば、再生品を新しいお客様にお渡しした時に、それが漏電していて、お客様が感電したというような事が万が一にも起こらないよう、安全試験をしっかり行なって、専用の検査モードで機能や安全性を確認している。また、再生に使用する部材はもちろん、洗浄に使うクリーニング剤まで、事前に有害物質が含まれていないかも検査している」と説明。
さらに、「返品された製品をリサイクル工場にまわして破砕するのではなく、その製品が、どうして返品されたのかを工場で解析し、再生し、次のお客様に届ける。そして、例えば、傷がつきやすい箇所や、汚れやすい箇所、交換し難い箇所など、再生工程で得られたデータ・知見を、(パナソニックの)企画・設計部門にフィードバックし、次の商品開発に活かす事もできる」とし、商品の循環だけでなく、より環境に配慮したモノづくりへの、データ・知見の循環も大切だと語った。